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堀内勤志税理士事務所
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2015年1月12日
最高裁判所判決
判決年月日
平成25年9月4日
判決
破棄東京高等裁判所差戻
判示事項
  1. 民法900条4号ただし書前段の規定と憲法14条1項
  2. 民法900条4号ただし書前段の規定を違憲とする最高裁判所の判断が他の相続における上記規定を前提とした法律関係に及ぼす影響
判決要旨
  1. 民法900条4号ただし書前段の規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していた。
  2. 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は,上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき,同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
  3. (1,2につき補足意見がある。)
参考事項
全文
平成24年(ク)第984号,第985号 遺産分割審判に対する抗告棄却決定 に対する特別抗告事件 平成25年9月4日 大法廷決定
主 文
  • 原決定を破棄する。
  • 本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理 由
抗告人Y1の抗告理由第1及び抗告人Y2の代理人小田原昌行,同鹿田昌,同柳生由紀子の抗告理由3(2)について
  1. 事案の概要等
  2. 本件は,平成13年7月▲▲日に死亡したAの遺産につき,Aの嫡出である子 (その代襲相続人を含む。)である相手方らが,Aの嫡出でない子である抗告人ら に対し,遺産の分割の審判を申し立てた事件である。
     原審は,民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子 の相続分の2分の1とする部分(以下,この部分を「本件規定」という。)は憲法 14条1項に違反しないと判断し,本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗 告人らの法定相続分を前提に,Aの遺産の分割をすべきものとした。
     論旨は,本件規定は憲法14条1項に違反し無効であるというものである。
  3. 憲法14条1項適合性の判断基準について
  4. 憲法14条1項は,法の下の平等を定めており,この規定が,事柄の性質に応じ た合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のも のであると解すべきことは,当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号6766頁, 最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。
     相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであ るが,相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社事情、国民感情 なども考慮されなければならない。さらに,現在の相続制度は,家族というものを どのように考えるかということと密接に関係しているのであって,その国における婚姻ないし親子関係に対する規律,国民の意識等を離れてこれを定めることはでき ない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは,立法府 の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。この事件で問われているのは、このようにして定められた相続制度全体のうち,本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。
  5. 本件規定の憲法14条1項適合性について
  6. (1) 憲法24条項は,「婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。」と定め、同条2は、「配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の 本質的平等に立脚して,制定されなければならない。」と定めている。これを受けて,民法739条1項は,「婚姻は,戸籍法(中略)の定めるところにより届け出 ることによって,その効力を生ずる。」と定め、いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用している。一方,相続制度については,昭和22年法律第222号に よる民法の一部改正(以下「昭和22年民法改正」という。)により,「家」制度 を支えてきた家督相続が廃止され,配偶者及び子が相続人となることを基本とする現在の相続制度が導入されたが,家族の死亡によって開始する遺産相続に関し嫡出 でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定(昭和22年民法改正前の民法1004条ただし書)は、本件規定として現行民法にも引き継がれた。
    (2) 最高裁平成3年(ク)第143号同7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁(以下「平成7年大法廷決定」という。)は、本件規定を含む法定 相続分の定めが、法定相続分のとおりに相続が行われなければならないことを定めたものではなく,遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能 する規定であることをも考慮事情とした上,前記2と同旨の判断基準の下で、嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1と定めた本件規定につき、「民法 が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を 優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものである」とし,その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、憲法14条1項に反するものとはいえないと判断した。
     しかし、法律婚主義の下においても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分をどのように定めるかということについては,前記2で説示した事柄を総合的に考慮して決せられるべきものであり,また、これらの事柄は時代と共に変遷するものでもあるから、その定めの合理性については、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され、吟味されなければならない。
    (3) 前記2で説示した事柄のうち重要と思われる事実について,昭和22年民法改正以降の変遷等の概要をみると、次のとおりである。
    1. ア 昭和22年民法改正の経緯をみると、その背景には、「家」制度を支えてき た家督相続は廃止されたものの、相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や、 法律婚を正当な婚姻とし、これを尊重し、保護する反面、法律婚以外の男女関係、あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたこと がうかがわれる。また、この改正法案の国会審議においては、本件規定の憲法14条1項適合性の根拠として、嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出 でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げられており、現行民法に本件規定を設けるに当たり、上記諸外国の立法例が影響を与えていたことが認められる。
       しかし、昭和22年民法改正以降、我が国においては、社会、経済状況の変動に伴い、婚姻や家族の実態が変化し、その在り方に対する国民の意識の変化も指摘されている。 すなわち、地域や職業の種類によって差異のあるところであるが、要約すれば、戦後の経済の急速な発展の中で、職業生活を支える最小単位として、夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに、 高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり、子孫の生活手段としての意 義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。昭和55年法律第51号による民法の一部改正により配偶者の法定相続分が引き上げられるなどしたのは、このような変化を受けたものである。 さらに,昭和50年代前半頃までは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数は,その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか、平成期に入った後においては、いわゆる晩婚化、非婚化、少子化が進み、 これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに、離婚件数、特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしている。 これらのことから、婚姻,家族の形態が著しく多様化しており、これに伴い、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。
    2. イ 前記アのとおり本件規定の立法に影響を与えた諸外国の状況も、大きく変化してきている。すなわち、諸外国、特に欧米諸国においては、かつては、 宗教上の理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く、昭和22年民法改正当時は、多くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり、 そのことが本件規定の立法に影響を与えたところである。しかし、1960年代後半(昭和40年代前半)以降、 これらの国の多くで、子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平等化が進み,相続に関する差別を廃止する立法がされ、平成7年大法廷決定時点で この差別が残されていた主要国のうち,ドイツにおいては1998年(平成10年)の「非嫡出子の相続法上の平等化に関する法律」により、フランスにおいては 2001年(平成13年) の「生存配偶者及び姦生子の権利並びに相続法の諸規定の現代化に関する法律」により、嫡出子と嫡出でない子の相続分に関する差別が それぞれ撤廃されるに至っている。現在,我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は、欧米諸国にはなく、世界的にも限られた状況にある。
    3. ウ 我が国は、昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和54年条約第7号)を、平成6年に「児童の権利に関する条約」 (平成6年条約第2号)をそれぞれ批准した。これらの条約には、児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規定が設けられている。また、国際連合の関連組織として、前者の 条約に基づき自由権規約委員会が、後者の条約に基づき児童の権利委員会が設置されており、これらの委員会は、上記各条約の履行状況等につき,締約国に対し、意見の表明、勧告等をすることができるものとされている。
       我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については、平成5年に自由権規約委員会が,包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し、その後、上記各委員会が、具体的に本件規定を含む国籍,戸籍及び相続における差別的規定を問題にして、懸念の表明、法改正の勧告等を繰り返してきた。最近でも、平成22年に、児童の権利委員会が、本件規定の存在を懸念する旨の見解を改めて示している。
    4. エ 前記イ及びウのような世界的な状況の推移の中で、我が国における嫡出子と 嫡出でない子の区別に関わる法制等も変化してきた。すなわち、住民票における世帯主との続柄の記載をめぐり、昭和63年に訴訟が提起され、その控訴審係属中である平成6年に、住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自治振第233号)が行われ、世帯主の子は、嫡出子であるか嫡出でない子であるかを区別することなく、一律に「子」と記載することとされた。また、戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても、平成11年に訴訟が提起さ れ、その第1審判決言渡し後である平成16年に、戸籍法施行規則の一部改正(平成16年法務省令第76号)が行われ、嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載 することとされ、既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載 も、通達(平成16年11月1日付け法務省民一第30088号民事局長通達)により,当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。さらに,最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁は、嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し、同判決を契機とする国籍法の上記改正に際しては、同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない子も日本国籍を取得し得ることとされた。
    5. オ 嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等なものにすべきではないかとの問題についても,かなり早くから意識されており、昭和54年に法務省民事局参事官室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された「相続に関する民法改正要綱試案」において、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする旨の案が示された。また、平成6年に同じく上記小委員会の審議に基づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において、両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。さらに、平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により準備された。もっとも、いずれも国会提出には至っていない。
    6. カ 前記ウの各委員会から懸念の表明、法改正の勧告等がされた点について同エのとおり改正が行われた結果、我が国でも、嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱いはおおむね解消されてきたが、本件規定の改正は現在においても実現されていない。その理由について考察すれば、欧米諸国の多くでは,全出生数に占める嫡出でない子の割合が著しく高く、中には50%以上に達している国もあるのとは対照的に,我が国においては、嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはいえ、平成22年でも2万3000人余、上記割合としては約2.2%にすぎないし、婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみられるなど、全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること、換言すれば、家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも、法律婚を尊重する意識は幅広く浸透しているとみられることが、上記理由の一つではないかと思われる。
       しかし、嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の合理性は,前記2及び(2)で説示したとおり、種々の要素を総合考慮し、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であり、法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているということや、嫡出でない子の出生数の多寡,諸外国と比較した出生割合の大小は、上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。
    7. キ 当裁判所は、平成7年大法廷決定以来、結論としては本件規定を合憲とする判断を示してきたものであるが,平成7年大法廷決定において既に、嫡出でない子の立場を重視すべきであるとして5名の裁判官が反対意見を述べたほかに、婚姻、親子ないし家族形態とこれに対する国民の意識の変化、更には国際的環境の変化を指摘して、昭和22年民法改正当時の合理性が失われつつあるとの補足意見が述べられ、その後の小法廷判決及び小法廷決定においても、同旨の個別意見が繰り返し述べられてきた(最高裁平成11年(オ)第1453号同12年1月27日第一小法廷判決・裁判集民事196号251頁、最高裁平成14年(オ)第1630号同15年3月28日第二小法廷判決・裁判集民事209号347頁、最高裁平成14年(オ)第1963号同15年3月31日第一小法廷判決・裁判集民事209号397頁、最高裁平成16年(オ)第992号同年10月14日第一小法廷判決・裁判集民事215号253頁,最高裁平成20年(ク)第1193号同21年9月30日第二小法廷決定・裁判集民事231号753頁等)。特に,前掲最高裁平成15年3月31日第一小法廷判決以降の当審判例は、その補足意見の内容を考慮すれば、本件規定を合憲とする結論を辛うじて維持したものとみることができる。
    8. ク 前記キの当審判例の補足意見の中には、本件規定の変更は、相続、婚姻、親子関係等の関連規定との整合性や親族・相続制度全般に目配りした総合的な判断が必要であり、また、上記変更の効力発生時期ないし適用範囲の設定も慎重に行うべきであるとした上、これらのことは国会の立法作用により適切に行い得る事柄である旨を述べ、あるいは、速やかな立法措置を期待する旨を述べるものもある。
       これらの補足意見が付されたのは、前記オで説示したように、昭和54年以降間けつ的に本件規定の見直しの動きがあり、平成7年大法廷決定の前後においても法律案要綱が作成される状況にあったことなどが大きく影響したものとみることもできるが、いずれにしても、親族・相続制度のうちどのような事項が嫡出でない子の法定相続分の差別の見直しと関連するのかということは必ずしも明らかではなく、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする内容を含む前記オの要綱及び法律案においても、上記法定相続分の平等化につき、配偶者相続分の変更その他の関連する親族・相続制度の改正を行うものとはされていない。そうすると、関連規定との整合性を検討することの必要性は、本件規定を当然に維持する理由とはならないというべきであって、上記補足意見も、裁判において本件規定を違憲と判断することができないとする趣旨をいうものとは解されない。また、裁判において本件規定を違憲と判断しても法的安定性の確保との調和を図り得ることは、後記4で説示するとおりである。
       なお,前記(2)のとおり、平成7年大法廷決定においては、本件規定を含む法定相続分の定めが遺言による相続分の指定等がない場合などにおいて補充的に機能する規定であることをも考慮事情としている。しかし、本件規定の補充性からすれば、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とすることも何ら不合理ではないといえる上、遺言によっても侵害し得ない遺留分については本件規定は明確な法律上の差別というべきであるとともに、本件規定の存在自体がその出生時から嫡出でない子に対する差別意識を生じさせかねないことをも考慮すれば、本件規定が上記のように補充的に機能する規定であることは、その合理性判断において重要性を有しないというべきである。
    (4) 本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は、その中のいずれか一つを捉えて,本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし、昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
     以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
     したがって、本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。
  7. 先例としての事実上の拘束性について
  8. 本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり、平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法廷判決及び小法廷決定が,それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。
    他方、憲法に違反する法律は原則として無効であり、その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると、本件規定は、本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により,上記当時以降は無効であることとなり、また、本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。しかしながら、本件規定は、国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し、相続という日常的な現象を規律する規定であって,平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると、その間に、本件規定の合憲性を前提として、多くの遺産の分割が行われ、更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け、本決定の違憲判断は、長期にわたる社会状況の変化に照らし、本件規定がその合理性を失ったことを理由として、その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするものである。それにもかかわらず、本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり、当裁判所の違憲判断も、その先例としての事実上の拘束性を限定し、法的安定性の確保との調和を図ることが求められているといわなければならず、このことは、裁判において本件規定を違憲と判断することの適否という点からも問題となり得るところといえる(前記3(3)ク参照)。
     以上の観点からすると、既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが、関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば、本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。そして、相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については、債務者から支払を受け、又は権者に弁済をするに当たり、法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから、相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく、その後の関係者間での裁判の終局,明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて、法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。
     したがって、本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
  9. 結 論
  10. 以上によれば、平成13年7月▲▲日に開始したAの相続に関しては、本件規定は、憲法14条1項に違反し無効でありこれを適用することはできないというべき である。これに反する原審の前記判断は、同項の解釈を誤るものであって是認する ことができない。論旨は理由があり,その余の論旨について判断するまでもなく原 決定は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻 すこととする。
     よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお,裁判官金築誠 志,同千葉勝美,同岡部喜代子の各補足意見がある。
     裁判官金築誠志の補足意見は,次のとおりである。
    法廷意見のうち本決定の先例としての事実上の拘束性に関する判示は、これまでの当審の判例にはなかったもので、将来にわたり一般的意義を有し、種々議論があり得ると思われるので、私の理解するところを述べておくこととしたい。
     本決定のような考え方が、いかにして可能であるのか。この問題を検討するに当たっては、我が国の違憲審査制度において確立した原則である、いわゆる付随的違憲審査制と違憲判断に関する個別的効力説を前提とすべきであろう。
     付随的違憲審査制は、当該具体的事案の解決に必要な限りにおいて法令の憲法適合性判断を行うものであるところ、本件の相続で問題とされているのは、同相続の開始時に実体的な効力を生じさせている法定相続分の規定であるから、その審査また,個別的効力説では、違憲判断は当該事件限りのものであって、最高裁判所の違憲判断といえども、違憲とされた規定を一般的に無効とする効力がないから、立法により当該規定が削除ないし改正されない限り、他の事件を担当する裁判所は、当該規定の存在を前提として、改めて憲法判断をしなければならない。個別的効力説における違憲判断は、他の事件に対しては、先例としての事実上の拘束性しか有しないのである。とはいえ、遅くとも本件の相続開始当時には本件規定は憲法14条1項に違反するに至っていた旨の判断が最高裁判所においてされた以上、法の平等な適用という観点からは、それ以降の相続開始に係る他の事件を担当する裁判所は、同判断に従って本件規定を違憲と判断するのが相当であることになる。その意味において、本決定の違憲判断の効果は,遡及するのが原則である。
     しかし、先例としての事実上の拘束性は、同種の事件に同一の解決を与えることにより、法の公平・平等な適用という要求に応えるものであるから,憲法14条1項の平等原則が合理的な理由による例外を認めるのと同様に、合理的な理由に基づく例外が許されてよい。また、先例としての事実上の拘束性は、同種の事件に同一の解決を与えることによって,法的安定性の実現を図るものでもあるところ、拘束性を認めることが、かえって法的安定性を害するときは、その役割を後退させるべきであろう。本決定の違憲判断により、既に行われた遺産分割等の効力が影響を受けるものとすることが、著しく法的安定性を害することについては、法廷意見の説示するとおりであるが、特に、従来の最高裁判例が合憲としてきた法令について違憲判断を行うという本件のような場合にあっては、従来の判例に依拠して行われてきた行為の効力を否定することは,法的安定性を害する程度が更に大きい。
     遡及効を制限できるか否かは、裁判所による法の解釈が、正しい法の発見にとどまるのか、法の創造的機能を持つのかという問題に関連するところが大きいとの見解がある。確かに、当該事件を離れて、特定の法解釈の適用範囲を決定する行為は、立法に類するところがあるといわなければならない。裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまると考えれば、遡及効の制限についても否定的な見解に傾くことになろう。そもそも、他の事件に対する法適用の在り方について判示することの当否を問題にする向きもあるかもしれない。
     しかし、本決定のこの点に関する判示は、予測される混乱を回避する方途を示すことなく本件規定を違憲と判断することは相当でないという見地からなされたものと解されるのであって、違憲判断と密接に関連しているものであるから、単なる傍論と評価すべきではない。また,裁判所による法解釈は正しい法の発見にとどまるという考え方については、法解釈の実態としては、事柄により程度・態様に違いはあっても,通常,何ほどかの法創造的な側面を伴うことは避け難いと考えられるのであって、裁判所による法解釈の在り方を上記のように限定することは、相当とは思われない。コモン・ローの伝統を受け継ぐ米国においても、判例の不遡及的変更を認めている。
     また、判例の不遡及的変更は、憲法判断の場合に限られる問題ではないが、法令の規定に関する憲法判断の変更において、法的安定性の確保の要請が、より深刻かつ広範な問題として現出することは、既に述べたとおりである。法令の違憲審査については、その影響の大きさに鑑み、法令を合憲的に限定解釈するなど、謙抑的な手法がとられることがあるが、遡及効の制限をするのは、違憲判断の及ぶ範囲を限定しようというものであるから、違憲審査権の謙抑的な行使と見ることも可能であろう。
     いずれにしても、違憲判断は個別的効力しか有しないのであるから、その判断の遡及効に関する判示を含めて、先例としての事実上の拘束性を持つ判断として、他の裁判所等により尊重され、従われることによって効果を持つものである。その意味でも、立法とは異なるのであるが、実際上も、今後どのような形で関連する紛争が生ずるかは予測しきれないところがあり、本決定は、違憲判断の効果の及ばない場合について、網羅的に判示しているわけでもない。各裁判所は、本決定の判示を指針としつつも、違憲判断の要否等も含めて、事案の妥当な解決のために適切な判断を行っていく必要があるものと考える。
     裁判官千葉勝美の補足意見は、次のとおりである。
     私は、法廷意見における本件の違憲判断の遡及効に係る判示と違憲審査権との関係について、若干の所見を補足しておきたい。
     1 法廷意見は、本件規定につき、遅くとも本件の相続が発生した当時において違憲であり、それ以降は無効であるとしたが、本決定の違憲判断の先例としての事実上の拘束性の点については、法的安定性を害することのないよう、既に解決した形となっているものには及ばないとして、その効果の及ぶ範囲を一定程度に制限する判示(以下「本件遡及効の判示」という。)をしている。
     この判示については、我が国の最高裁判所による違憲審査権の行使が、いわゆる付随的審査制を採用し、違憲判断の効力については個別的効力説とするのが一般的な理解である以上、本件の違憲判断についての遡及効の有無,範囲等を、それが先例としての事実上の拘束性という形であったとしても、対象となる事件の処理とは離れて、他の同種事件の今後の処理の在り方に関わるものとしてあらかじめ示すことになる点で異例ともいえるものである。しかし、これは、法令を違憲無効とすることは通常はそれを前提に築き上げられてきた多くの法律関係等を覆滅させる危険を生じさせるため、そのような法的安定性を大きく阻害する事態を避けるための措置であって、この点の配慮を要する事件において、最高裁判所が法令を違憲無効と判断する際には,基本的には常に必要不可欠な説示というべきものである。その意味で、本件遡及効の判示は、いわゆる傍論(obiter dictum)ではなく、判旨(ratio decidendi)として扱うべきものである。
     2  次に、違憲無効とされた法令について立法により廃止措置を行う際には、廃止を定める改正法の施行時期や経過措置について、法的安定性を覆すことの弊害等を考慮して、改正法の附則の規定によって必要な手当を行うことが想定されるところであるが、本件遡及効の判示は、この作用(立法による改正法の附則による手当)と酷似しており、司法作用として可能かどうか、あるいは適当かどうかが問題とされるおそれがないわけではない。
     憲法が最高裁判所に付与した違憲審査権は、法令をも対象にするため、それが違憲無効との判断がされると、個別的効力説を前提にしたとしても、先例としての事実上の拘束性が広く及ぶことになるため、そのままでは法的安定性を損なう事態が生ずることは当然に予想されるところである。そのことから考えると、このような事態を避けるため、違憲判断の遡及効の有無、時期、範囲等を一定程度制限するという権能、すなわち、立法が改正法の附則でその施行時期等を定めるのに類した作用も、違憲審査権の制度の一部として当初から予定されているはずであり、本件遡及効の判示は、最高裁判所の違憲審査権の行使に性質上内在する、あるいはこれに付随する権能ないし制度を支える原理、作用の一部であって、憲法は、これを違憲審査権行使の司法作用としてあらかじめ承認しているものと考えるべきである。
     裁判官岡部喜代子の補足意見は,次のとおりである。
     本件の事案に鑑み、本件規定の憲法適合性の問題と我が国における法律婚を尊重する意識との関係について、若干補足する。
     1 平成7年大法廷決定は、民法が法律婚主義を採用した結果婚姻から出生した嫡出子と嫡出でない子の区別が生じ、親子関係の成立などにつき異なった規律がされてもやむを得ないと述べる。親子の成立要件について、妻が婚姻中に懐胎した子については何らの手続なくして出生と同時にその夫が父である嫡出子と法律上推定されるのであり(民法772条)、この点で、認知により父子関係が成立する嫡出でない子と異なるところ、その区別は婚姻関係に根拠を置くものであって合理性を有するといえる。しかし、相続分の定めは親子関係の効果の問題であるところ、婚姻関係から出生した嫡出子を嫡出でない子より優遇すべきであるとのとの結論は、上記親子関係の成立要件における区別に根拠があるというような意味で論理的に当然であると説明できるものではない。
     婚姻の尊重とは嫡出子を含む婚姻共同体の尊重であり、その尊重は当然に相続分における尊重を意味するとの見解も存在する。しかし、法廷意見が説示するとおり、相続制度は様々な事柄を総合考慮して定められるものであり、それらの事柄は時代と共に変遷するものである以上、仮に民法が婚姻について上記のような見解を採用し、本件規定もその一つの表れであるとしても、相続における婚姻共同体の尊重を、被相続人の嫡出でない子との関係で嫡出子の相続分を優遇することによって貫くことが憲法上許容されるか否かについては、不断に検討されなければならないことである。
     2 夫婦及びその間の子を含む婚姻共同体の保護という考え方の実質上の根拠として、婚姻期間中に婚姻当事者が得た財産は実質的には婚姻共同体の財産であって本来その中に在る嫡出子に承継されていくべきものであるという見解が存在する。確かに、夫婦は婚姻共同体を維持するために働き、婚姻共同体を維持するために協力するのであり(夫婦については法的な協力扶助義務がある。)、その協力は長期にわたる不断の努力を必要とするものといえる。社会的事実としても、多くの場合、夫婦は互いに、生計を維持するために働き、家事を負担し、親戚付き合いや近所付き合いを行うほか様々な雑事をこなし、あるいは、長期間の肉体的、経済的負担を伴う育児を行い、高齢となった親その他の親族の面倒を見ることになる場合もある。嫡出子はこの夫婦の協力により扶養され養育されて成長し、そして子自身も夫婦間の協力と性質・程度は異なるものの事実上これらに協力するのが通常であろう。
     これが、基本的に我が国の一つの家族像として考えられてきたものであり、こうした家族像を基盤として、法律婚を尊重する意識が広く共有されてきたものということができるであろう。平成7年大法廷決定が対象とした相続の開始時点である昭和63年当時においては、上記のような家族像が広く浸透し、本件規定の合理性を支えていたものと思われるが、現在においても、上記のような家族像はなお一定程度浸透しているものと思われ、そのような状況の下において、婚姻共同体の構成員が、そこに属さない嫡出でない子の相続分を上記構成員である嫡出子と同等とすることに否定的な感情を抱くことも,理解できるところである。
     しかし,今日種々の理由によって上記のような家族像に変化が生じていることは法廷意見の指摘するとおりである。同時に、嫡出でない子は、生まれながらにして選択の余地がなく上記のような婚姻共同体の一員となることができない。もちろん、法律婚の形をとらないという両親の意思によって、実態は婚姻共同体とは異ならないが嫡出子となり得ないという場合もないではないが、多くの場合は、婚姻共同体に参加したくてもできず、婚姻共同体維持のために努力したくてもできないという地位に生まれながらにして置かれるというのが実態であろう。そして、法廷意見が述べる昭和22年民法改正以後の国内外の事情の変化は、子を個人として尊重すべきであるとの考えを確立させ、婚姻共同体の保護自体には十分理由があるとしても、そのために婚姻共同体のみを当然かつ一般的に婚姻外共同体よりも優遇することの合理性、ないし、婚姻共同体の保護を理由としてその構成員である嫡出子の相続分を非構成員である嫡出でない子の相続分よりも優遇することの合理性を減少せしめてきたものといえる。
     こうした観点からすると、全体として法律婚を尊重する意識が広く浸透しているからといって、嫡出子と嫡出でない子の相続分に差別を設けることはもはや相当ではないというべきである。

    (裁判長裁判官 竹崎博允 裁判官 櫻井龍子 裁判官 竹内行夫 裁判官 金築誠志 裁判官 千葉勝美 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇 裁判官 岡部喜代子 裁判官 大谷剛彦 裁判官 大橋正春 裁判官 山浦善樹 裁判官 小貫芳信 裁判官 鬼丸かおる
    裁判官 木内道祥)

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